mirea 街を彩る ヒト・モノ・コトをつなぐ[ミレア]

美術・写真
2020.11.20

縫いの作家 柵瀨 茉莉子

 

木片や木の葉、貝殻などの素材に寄り添い
生きて来た時間に思いを馳せながら“縫う”

 

縫う。そんなシンプルな手仕事に魅せられた作家・柵瀨茉莉子さんの展覧会が開催中です。花びらや木の葉、木片、貝殻などを縫い留めた作品はとても魅力的。ただ、自然素材は時間とともに変化し、退色してしまうのでは?

「確かに、素材の色や形はやがて崩れてしまうかもしれません。でも私は、それを無理に留めるのではなく、それがあった“余韻”を残したいんです。ちくちく縫う時間の中で、その素材が経てきた時間に思いを馳せ、寄り添ってみる。そんな時間遊びの世界を楽しんでいるのかもしれません(笑)」

展覧会は今年の春に予定されていたのですが、コロナ禍の影響で延期となっていました。柵瀨さんもさぞヤキモキしていたのでは、と思ったのですが、実はこの間に第二子を出産し、忙しくも充実した日々を送っていたようです。

「出産の時に新作のアイデアが浮かんだので、展覧会に間に合うよう制作しました。楽しみにしていてください」


《山の記憶》(部分)2019-2020年 花びら、葉、枝、実、種、果実の皮、糸、布、写真(5点組)、作家蔵。撮影:山中慎太郎[Qsyum!]。

この春、個展のために横浜美術館に搬入された作品は、コロナ禍にあって一度も公開されることなく美術館で保管されることに。素材が“生もの”だけに、作品のニュアンスは制作時と若干変わっているかもしれませんが、それも受け入れるのが柵瀨さんのスタイル。

木片にボール盤で穴をあけ、ひたすら縫う。
「穴を開けるのはとても時間がかかる作業なので、正直に言えば『これを全部埋めるのか』と、思うことも(笑)。でも、木が生きていたことを感じて、あれこれ思いを巡らせながらの作業は、やっぱり楽しいですね」

新作は出産時に着ていた服がテーマ。
「出産の瞬間はかなりの出血がありますよね。血に対して“怖い”イメージを持つ方は多いと思いますが、私はその時、すごくホッとしたんです。お腹の中の赤ちゃんと一緒にちゃんと出てきてくれた、という安心感。そして、その血もまた時間とともに変化していく。そんな思いを、ちくちく縫い留めています」

 

profile
■柵瀨茉莉子
(さくらい・まりこ)
横須賀市生まれ、横浜市在住。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻クラフト領域(木工)修了。「縫う」ことを表現手段とし、主に木片や木の葉、花びらといった自然物を素材とした作品を制作。

 

柵瀨茉莉子さんインタビュー》

「縫う」という制作スタイルをはじめたきっかけは?

もともとファッションが好きだったのですが、デザイン画から実際にモノをつくる段階で苦労したので、まず“モノづくり”を学ぼうと思いました。でも、進学した筑波大学芸術専門学群構成専攻クラフト領域にはテキスタイル専攻がなくて、やむを得ず木工を選択。当然のことながら、周りには器や椅子など“用の美”を作る方が多い環境じゃないですか。そんな中で『自分にはなにができるのだろう』と考え、たどりついたのが“縫う”ことです。私は刺繍の先生をしていた祖母の元で育ったので、大好きな祖母がいつもやっていた“縫う”ことをしてみたい、と思ったんです。

そこから「木を縫う」というシリーズが生まれたわけですね

年輪のように時を経たもの、時間の流れを感じるものが好きなんです。授業の一環で訪れた製材所や職人さんの工房から朽ちた木材や木の破片をいただいてきては、年輪をたどるようにボール盤で穴を開け、針と糸で縫っていきました。
木だけでなく、葉っぱや花びらも好きです。昆虫はまだ試したことがありませんが、蝉の羽などはとてもキレイなので、いつか作品にしてみたいと思っています。


*《いとの日‐2》(部分)2019年 花びら、葉、銀糸、髪の毛、猫の毛、祖母のトレーナー 作家蔵

 

DMなどに使用した《いとの日‐2》という作品は、昨年亡くなられたお祖母様のトレーナーが素材だと伺いました

祖母がお気に入りだったトレーナーに、庭に咲いていた花、ミントの葉、愛猫の毛、祖母の遺髪などを、たくさんの思い出や「ありがとう」の気持ちとともに縫い留めました。花びらや葉はやがて色褪せてしまいますが、その時の“手の跡”を残しておきたいと思って。とてもプライベートな作品なので、公開にはためらいもありましたが、ご覧になった方が何かを考えるきっかけになれば、と思っています。

今後の活動予定を教えていただけますか

2021年は、日本大通りにあるGALERIE PARISで開催されるグループ展「第20回 新春21世紀展」からスタートします。
また、4月には江ノ島のGallery Gigiで個展を開く予定です。詳細はこれからつめていきますが、「実験的なことをやってほしい」と言われているので、楽しみにしていてください。

 

New Artist Picks
柵瀨茉莉子展|いのちを縫う
[会期]11月14日(土)〜12月13日(日)
[時間]11:00〜18:00
※Café小倉山は10:45~18:00
[会場]横浜美術館 アートギャラリー1、Café小倉山
[休館日]木曜日
[料金]無料
[主催]横浜美術館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
[協力]GALERIE PARIS、Café小倉山
[問合せ]045-221-0300(横浜美術館)

 

 

SPOT INFO

横浜美術館

横浜美術館は、1989年11月3日に開館しました。迫力のあるシンメトリーな外観と、吹き抜けの開放的なグランドギャラリーが特徴の当館は、7つの展示室のほか、11万冊を超える蔵書がある美術情報センター、多彩なワークショップを行うアトリエなども揃う、国内でも有数の規模を誇る美術館です。 国際的な港町、横浜にふさわしい美術館として、開港以降の近・現代美術を幅広く鑑賞していただけるほか、年間を通じて、約1万2千点の所蔵品からテーマごとに展示を行うコレクション展、多彩な企画展を開催しています。

 

(写真左)撮影:笠木靖之
(写真中央)撮影:笠木靖之
(写真右)撮影:田中雄一郎

 

  • ショップ・スポット名
    横浜美術館
  • 住所
    神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1

    横浜美術館
  • 電話
    045-221-0300
  • 営業時間
    10:00〜18:00(入館は17:30まで) 木曜および年末年始は閉館
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