mirea 街を彩る ヒト・モノ・コトをつなぐ[ミレア]

美術・写真
2020.10.07

店主にも会いたいギャラリー

Kanagawaギャラリーさんぽ
File.13 うつわ 菜の花
山本詩野(ギャルリーワッツ)

 

「うつわ 菜の花」から送られてくるDMには、いつも文章が添えてあります。
それは、だいちゃんこと、店主・高橋台一氏の熱い思い。
あるときは、どれだけその作家に惚れているか、またあるときは作り手の未知なる世界への期待、そしてあるときは、ものが放つ光についてなどが、台さん(私の呼び方)のまなざしで語られています。
感じたままを直球で語り、投げかけるので、それを読むと行きたくなるのです。

錚々たる作家の展覧会が開かれる「うつわ菜の花」ですが、今回は「店主にも会いたくなる」がポイントのギャラリーさんぽです。

小田原駅を出て、小田原城址公園に沿って歴史を感じながら歩くこと15分くらいでしょうか、箱根へと繋がる国道沿いに「うつわ 菜の花」はあります。

染色家であり造形作家、デザイナーなど多彩な顔を持つ望月通陽さんの暖簾が目に飛び込んでくるので、すぐわかります。


ちなみに裏口はこんな感じ。こちらにも「ナノハナ」と望月さんの字で書かれた暖簾。

展覧会は、ギャルリーワッツでもお馴染みの彫刻家・神林學(がく)さんのワイヤーマンが開催されていました。

小指の爪ほどの点でバランスを取り、ヒトカタ(人形)を立たせる神林さんの造形力はみごとで、観る側は床に貼りつけて保たせているのだと勘違いしてしまうほど。
それは、骨格と筋肉の連動、人体の動きをとらえきっているからこそなせる技だと、毎度のことながら感心して作品を拝見しました。

中庭を抜けて奥の間に行くと、神林作品の背景に、前回まで開催していたという吉田素子さんのデッサンが。
どちらも一見、不完全のような見え方。でも見えていない部分には何かしらの存在を感じます。

例えば神林作品で言えば筋肉だったり、吉田作品で言えば物が置かれている空間に居る人とか話し声だったり。だから二つの作品の相性に心地よさを感じるのかもしれません。

さて、台さん(左)と神林さん(右)は出会って約35年の付き合いで、偶然にも同い年。そして二人ともお酒好き。展覧会中だろうが構わない。さっそく始まりました。

小田原は、江戸時代は宿場町、明治期になると別荘や居住地として住む政財界人、文化人たちゆかりの町に。その地で1947年に生まれた台さんは、近所にたくさんユニークな人たちがいたと言います。

「近所のういろう(小田原で有名な漢方薬)家で囲碁を打つ祖父を迎えに行けば、ホッとする庭がありました。また、今の片岡美術店には李朝の白磁や美術品がありましたね。子どもだから“美しい”という意味がよくわからないながらも、なんで古いものは美しいんだろう、という感じ方はすでにあったなあ」と、台さん。

一方で、小田原海岸の物置小屋に暮らし、底辺層の生活や人間模様を描いた川崎長太郎や、坂口安吾の作品 にも登場した「ガランドウ」(*ガランドウ工芸社の山内直孝)が界隈にいたので、人間の泥臭さやピュアさも目の当たりにしてきたそう。だからでしょうか、台さんには包容力を感じるのです。

さて、神林さんは、山小屋の番人もしていた山男でタフガイな彫刻家。ずっと以前、こんなことを話されました。

「彫刻家と画家と比べると自害する人の多さは画家の方だね。画家はフレームの中におさめないといけないから限界を感じるんだろうね。彫刻家はある意味、無制限。空間は限りないからね。だから彫刻家は精神的に気楽なんだよ(笑)」

なるほどなあと思いました。

でも、気楽と言いながら、芸術家としての在りようには厳しく、「どんな状態でも媚びずに、自分に正直であること」を、自身で貫いています。

直感を大切にし、自分に嘘をつかない。それでいて、おおらかな二人だから、お酒を飲みながらの談義は、芸術論や素材の話、人間力など幅広く飛び、聴いていて実に面白い。タイムリミットに涙し、後ろ髪を引かれる思いで「うつわ 菜の花」を後にしました。

そして向かったのは、小田原駅東口の地下街の一角にある「菜の花 暮らしの道具店」。ここでは、台さんや菜の花スタッフがおススメの生活道具が常設販売され、また、染色家や陶芸家など作り手の企画展も定期的に開催されます。

隣の「菜の花 ムーンカフェ」には、神林さんの大きな作品が浮遊していました。

実は、「菜の花」は明治38年に創業した老舗和菓子屋で、台さんは三代目。(現在は息子さんが四代目として継承)お饅頭「箱根のお月さま」は、小田原、箱根界隈で目にしてご存知の方も多いのではないでしょうか。
しっとりとした皮に、黒糖ベースのあんこの甘みが何ともいいあんばい。庶民的なお饅頭なのに、どこかほんのり品を感じるのは、台さんと同じ?なんて言ったら台さんが大声で笑いそう。

(2020.9 取材)

 

《ギャラリー情報》
うつわ 菜の花

神奈川県小田原市南町1丁目3−12
TEL:0465-24-7020
営業時間:11:00〜18:00
*企画開催時のみ開廊(神林學展は終了しました)
駐車場:なし
http://utsuwa-nanohana.com/

《アクセス》
▶︎JR小田原駅から徒歩約15分

姉妹店
「菜の花 暮らしの道具店」
http://kurashinodouguten.com/

「箱根 菜の花展示室」
http://nanohana-tenjishitsu.com/

 

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