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弦楽器の製作・メンテナンスのプロがいる店。LA CANTINA

年月を経た木を使い、
一つ一つ手作業で仕上げる

バイオリンは300年以上の寿命を持ち、何人もの持ち主に大切に奏でられて、音色の円熟味を増していく??。そんなロマンチックな話をしてくれたのは、元町弦楽器「LA CANTINA(カンティーナ)」の店主・天野真人さんだ。大学在学中に弦楽器製作を始めた天野さんは、およそ10年の修業期間を経て、7年前に独立。現在にいたるまで多くの演奏家・愛好家のニーズに応えてきた。「材料とする木は、カエデと輸入物の松です。楽器の材料として使えるようなるまで、10年以上は寝かさなければいけないんですよ。製作する際は木を薄く削りすぎないようにしています。薄い方が鳴りはいいのですが音に深みがなく、ある程度上達すると物足りなくなってしまう。僕は長く弾いてもらえる楽器を作りたいと思っています」。
製作はもとよりメンテナンスなども幅広く手がける天野さん。これから夢を伺うと、「大したことは考えていないですが」と笑って、「これからも変わらず弦楽器を作り続けていきたいですね」と教えてくれた。

【LA CANTINA店内の様子 】


工房の主・天野真人さん

【天野真人さんインタビュー】

まずは、弦楽器づくりをはじめたきっかけを教えてください。
「単純に弦楽器そのものに興味がありました。構造はシンプルなんですが音色の幅が広くて、昔から演奏の名人がいたりして歴史的にも長いですし。不思議な楽器だなと思っていました」

子どものころから習っていたんですか?
「小さいころから習っていたわけではないですが、遊びで弾いたりはしていました。習ったのは大学生になってからです。単純に(楽器の)中身がどうなっているのか興味がありました。そんなにドラマチックなエピソードがあって始めたわけではないんですよ(笑)。
どちらかというとチェロを弾くんですが、構造がすごく単純なんですよね。ピアノですと弦をハンマーで叩いて音を出す構造で、複雑ですよね。でも弦楽器は、空き缶なんかに輪ゴムを張ってピンと弾けば音が出るのと同じ仕組み。弦を抑える位置を変えるだけで音階が変わりますし。擦弦楽器というのですが、世界中に同じ構造の楽器ってたくさんあります。馬がたくさんいるモンゴルでしたら馬のしっぽの毛を使った馬頭琴ですとか」

たしかにそうですね。弦楽器の製作も大学時代から始められたそうですが、就職活動はなさらなかったんですか?
「学生時代に修業を始めて、そのまま今に至るので、サラリーマンをやったことはないんですよ。(修業は)東京のほうに世界的に著名な弦楽器職人の方がいらっしゃいまして、大将というか親方というんでしょうか、その方のところで作り方だとか修理の仕方を4年間習いました。その後は、別の楽器づくりの先生のところで、弟子入りのような感じで6年間働いていました。そこである程度年月が経ったので、元町で開業するという運びになりました」

楽器で作る上で、「いい音」の基準が分かっていないと難しい面もありそうですが、そこも含めて修業されたと。
「音というのは主観的な面があります。ある人にとっては優しいと感じる音が別の人にとっては籠って聞こえるとか、音が弱いとか感じるかもしれません。その感覚は演奏家の方と共有しないといけないですね。数値で計れるものではありませんので。
何をもって「いい音」いうのか、どうすれば基準をクリアできるのか。お客さまに納得してもらうには「私はこれがいいと思う」という主観の押しつけではいけませんので、「これは、こういうことができるので、一定の基準はクリアしています」という説明が大切です」

お客さまの好みを知ることも大切ですね。
「人によって変えることは多少ありますね。長く通っている方は、前回、前々回の仕上がりに納得して来てくださっていると思います」

たしかにそうですね。工房内にはバイオリンやチェロなど、いろいろな弦楽器が並んでいますが、材料となる木は同じなのでしょうか。
「はい。主な材料は、カエデとマツですね。マツは日本の海辺に生えているマツではなく、海外産の硬いマツです。これを使うことで音が響きます。使う木は10年ほど乾燥しなければいけないので、買ってきてすぐに使えるわけではないんです。たとえば、この木、すごく木目がキレイでしょう(と手にとって見せてくれる天野さん)。これは親方に譲ってもらったもので、30年以上経っているんですよ。木材を譲ってもらうというのは大変なことで、そもそも楽器職人は「自分が、この木で作ろう」という思い入れがあって仕入れているわけです。ですから、知らない相手に頼まれても(自分がストックしている木材は)売りませんし、そういう面でも親方とか仲間のつながりというのは大切なんですね」

技術以外にも師匠から受け継がれていることって多いんですね。
「そうですね。どの世界でもそうだと思いますが、いろいろなヒントがゴロゴロ転がっていても気づかず素通りしてしまうことってありますよね。弟子入りというのは学校とは違いますので、なんでもかんでも教えてくれるわけではありません。何か「秘訣」にしても、師匠側は「秘訣」とは思っていないかもしれないですし。たとえば、以前、弓づくりの職人さんのところへ行った時、その方は話している間もずーっと木の板をコンコン叩いていて、はじめは「落ち着きのない人だなあ」と思ったのですが、実は木材の状態を確かめていたんです。そうやって相手が何かを発信していても自分が気づかなければ、「落ち着きのない人」で終わってしまいますし、学ぶ側もアンテナを立てていることが大切ですね」

弦楽器づくりで大切なのは、
「木材の乾燥」と「厚み」

工房にいらっしゃるお客さまは、どういう方が多いですか?
「修理のご依頼が多いですね。また、すでに楽器をお持ちで、何年か弾いて、もう少しランクアップしたいという方もいらっしゃいます。お客さまはどちらかというと大人の方が多いでしょうか。もちろん、お子さんもいらっしゃって、以前楽器を作ったお嬢さんから「大学生になりました」という年賀状が届いたこともありました。
楽器の寿命というのはすごく長くて、ゆうに300年は保ちます。僕が作った楽器も、僕や持ち主がいなくなった後、世界中を旅するかもしれません。古いものは500年というのもありますが、木材的には厳しくなってきますね。現在ソリストとして活躍されている方が使っているのは、300年ぐらいのものが多いですね。骨董品としてではなく、現役として演奏されています」

弦楽器は古いほうがいいのでしょうか?
「それは考え方次第ですね。木が新しいと音が硬いですが、たくさん弾いていくと角がとれてまろやかになってくるんです。以前、音大生の学生さんに楽器をお作りした時、お渡しして一週間ほど経ったら明らかに音が変わっていました。弾いて振動することによって、だんだん「鳴る」ようになるんですね。新しい楽器は、自分と一緒に成長していくのが楽しみでしょうね」

古くなると何が変わるのですか?
「新しい材木は水分の含有量が多く、いってみればビチョビチョ濡れているような状態です。木として生えている時に、根からたくさん水を吸っていますから。イメージとして、明らかに音が響かなそうですよね(笑)。5年ぐらいでだいたい乾燥して、さらにそこから約5年かけて細胞レベルで乾燥していきます。乾燥というのは、そこでほぼ終わりです。湿気が残っていると曲がったり反ったりする原因になります。「水分」という抵抗をなくせば音が響くようになりますから、乾燥することが大事なんですね。
また、「響き」には木材の厚みも関係あります。木材が薄いと大きな音が出るので、初心者向けの楽器は薄めに削ることもあります。ただ、ある程度の曲を弾き始めると物足りなくなるんですね。そのところを長いスパンで考えて、僕は師匠には「薄く削るな」と言われてきました。厚く作ってしっかり鳴る楽器がいいんですね」

そこが天野さんのこだわりなんですね。では最後に、これからの夢や目標をお聞かせいただけますでしょうか。
「作り続けていくことが大事だと思っています。そんな大きな野望はないんですけど(笑)、ずっと作り続けていきたいですね」

【自作のチェロを演奏する天野さん】

LA CANTINA 弦楽器

バイオリン・ビオラ・チェロなど弦楽器の製作および修理・調整などを行っている「LA CANTINA」。ビルの地下1階にある工房には、これまで手がけた楽器をはじめ、材料となる木材などがずらり。楽器を始めたばかりの子どもから長年の愛好者まで、さまざまな人が訪れる。

  • ショップ・スポット名
    LA CANTINA 弦楽器
  • 住所
    横浜市中区元町5-211-20 キャナル元町B1
  • 電話
    045-641-4472
  • 営業時間
    月〜土 10:00〜19:00

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