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新たな書の楽しさを教えてくれる人●書家 こばやし鷺游さん

シンプルな線のアートで
豊かな世界を表現していく

 20代後半から本格的に書道を始め、わずか2年後、内閣総理大臣賞を受賞した異色の書家がこばやし鷺游(ろゆう)さんだ。「書くのは子どもの頃から好きだったのですが、習字教室には通わず、達筆だった母に手ほどきを受けていました。プロの書家としては珍しいタイプでしょうね」。

 そう語るこばやしさんは20代のころフランスで過ごし、多様な文化に刺激を受けて書の道に進むことを決めた。現在は作品発表の傍らアート書道の講師としても活躍中だ。「書道というのは線のアートなんです。教室では基本的な技術を身につけた上で、単にお手本をまねるだけでない、自分の感性をからめたアート書道を楽しんでいただいています」。

 題材は、日本語の歌詞や俳句などがほとんど。「書道では漢詩を書くことが多いのですが、一般の方には分かりにくいですよね。私は日常接している日本語の言葉を表現することで、書道をもっと開かれたアートにしていきたい。心うたれた言葉を表現していきたいなと思っています」。

こばやし 鷺游(こばやし ろゆう)
フランス滞在を機に本格的に書道を始め、日本教育書道藝術学 院師範取得。1998 年、全国公募東京書作展にて内閣総理大臣 賞を受賞。現在は作品制作の傍ら「墨娯書道教室」を主宰し、アー ト書道の楽しさを多くの人に伝えている。
詳細はこちら! こばやし鷺游先生

子どもの時から書道を習っていたわけではない、とブログで拝見してビックリしました。
いつごろ、どんなきっかけで始められたのでしょうか?
 いわゆる習字教室には通っていなかったんですが、母が書道やっていまして、わりと字がキレイな人なんですね。母は学生時代に書道部に入っていまして、顧問の方が今でも年賀状を送ってくださるんですが、私も見るたび「すごい年賀状だな!」と感動して、毎年楽しみにしているんです。
 私自身は、小学生の時に書道教室に行こうとは思ったんですが、そこの先生が苦手だった同級生のお母さんで(笑)。結局は行かずじまいになってしまいました(笑)。ただ、字を書くこと自体は好きで、母は書道の先生ではなかったんですが、教えてもらいながらよく書いていました。
 あと、絵を描くのも好きで、グラフィック系の専門学校に通っていたんです。書道はいつかやってみたいなあと思いながら、20代のころはフランスで暮らしていました。そこで、海外で暮らす人がよくいう「日本人としてのアイデンティティ」というやつにぶつかりまして(笑)。向こうで知り合いになった陶芸家さんの作品展などを見に行ったりしているうちに、本格的に書道をやろうという気持ちになったんです。
 帰国してから御徒町にある日本教育書道藝術院というところに入りまして、そのころ20代の後半だったんですが、そこから本格的に始めたというわけです。書道の世界ってどの流派でも公募展があるんですが、そこに出してもらったところ、1998年に内閣総理大臣賞をもらいまして、それをきっかけにプロになろうかなと。その後、個展を開いたりして、今に至るという感じです。
20代の後半からのスタートというと、異色の経歴ですか?
 やはり子どものころから続けているという方が多いですね。私のようにまったく大人になってから始めた、という人はあまりいないかもしれません。
お母様の影響などで、美的センスを磨いてきた点がよかったんでしょうか。
 そういう意味でいうと、フランスに行ったことが大きかったですね。フランスって芸術に対しての許容が広いですし、自国の文化を持ちつつ広く世界に窓が開かれていますので、いろんな国から来た人がいろんな活動をしているんですね。書道に限らず、そういう感性にふれたことで刺激されましたし、もともと私自身、絵を描いたりするのが好きで、いろんな面を持っていましたから。
 これは今、教室の生徒さんにもお伝えしていることなんですが、「表現する」っていうことはテクニック的なこと以上に、「見る」ことがすごく大切だと思うんです。アートっていうのは、「これはアートだけど、これはアートじゃない」っていう境界線があるわけではなくて、日常の中にころがっているんですね。たとえば私の教室では12月ぐらいまでの数ヶ月、自分で書きたい言葉を選んで書いてもらっているんです。そういった作品を作るにしても、日常的にアンテナを張り巡らせて、「こういう言葉を作品にしてみたい」とか、いろんなものを見ることが大切なんですね。
 書道なので基本的に文字を記号として使いますが、あくまで文字は借り物で視覚的なイメージ、つまりアートとして表現する作業を生徒さんにしてもらっています。書道をやっているから書道展を見に行くというだけでなく、美術だったり音楽のコンサートだったり、いろいろなものから受けた刺激を自分の作品作りに反映できたらいいな、と。世の中には総合的な表現手段があふれていますから。
どの言葉を選ぶか、だけでなくて、表現の仕方も大切なんですね。
 そうですね。まず文字についての知識を学び、さらに技法と感性を融合したものが書道なんです。
文字についての知識というと、行書や草書ということでしょうか?
 漢字はもともと中国から渡ってきたもので、すごく歴史があるものですよね。さらに日本で独自に発達した平仮名もあります。それぞれの歴史がありますよね。そういった変遷を知り、こういう書体の場合はこういうふうに書くという原則を認識した上で、テクニックを身につけていきます。
 書道というのは線のアートなんですよね。線で表現できるように練習を重ねていって、書体の知識を持った上で、自分の感性をからめて、自分の書きぶり・線を表現できるように鍛錬するというのが大切です。
アート書道というと、思いのままに書いてOKなのかな?というイメージもあったのですが、あくまで基礎が大切だと。
 もちろん感性が大切な部分もありますが、基礎を学ばずに自由に書くと、ただの落書きになってしまいますから(笑)。
先生の教室では、選ぶ題材にも特徴がありますよね。
 書道って中国伝来のものだけに、漢詩を書くことが多いんですよ。でも私たちは日本人ですから、普段ふれている日本語を書くのがいいと思いますし、心を打たれた言葉を書くのが一番の楽しみだと思うんですね。たとえば私の場合、俳句や歌の歌詞などをお借りして、表現することも多いんですが、その作品が作られた背景には作られた方の思いがあるわけです。そこをかみ砕いて、間違った方向に表現しないということも大切。ただ好きに書けばいいわけではないんですね。たとえば、俳句が作られた背景を知ることによって自分自身の知識も豊かになりますし、ものすごく作品に厚みが生まれてくるんです。
そこまで含めて、アートという世界になっていくんですね。
 書は人なり、とよく言いますが、まずは人を知らないと作品はできないんですね。白と黒のラインだけの非常にシンプルな世界ですので、文字を見るとなんとなくその方の人柄がわかったりするんです。非常におもしろいアートだと思います。
そうなんですか!
 どういう俳句に惹かれたか、というのも「人なり」ですよね。書く文章を選ぶことを「選文」というんですが、その時点からその人の性格だとか価値観が見え隠れするんです。書く文字もそうですが、どういう文章を選ぶかで、かなり性格が出ると思います。
教室の生徒さんが先ほど書いていらっしゃいましたが、あれも皆さんご自分で選んだ文章だったんですね。
 そうです。文字によって形にしやすい、しにくいというのがあるので、そこは私のほうでアドバイスしていきます。経験を積まないと分かりにくいところが、やはりありますのでね。
先生の教室では、いわゆるお手本に沿って練習するのではなくて、いつも好きな文字を選んで書くんですか?
 いえ、普段のカリキュラムではお手本に沿って書いてもらっています。いわゆる習字と書道の違いなんですが、習字というのは「字を習う」ということですよね。書道というのは、教育書道と芸術書道という2つの側面がありまして、教育書道が習字にあたるんです。字をキレイに書くことが目的の書道で、テクニックの部分です。これができた上で「芸術書道」に進んでいくと。子どもの時はお習字教室でいいんですが、大人になって「作品を作りたい」と思った時には芸術書道なんですね。
 うちがなぜ「アート書道」といっているかというと、書道というとどうしても字をキレイに書くという側面がクローズアップされているので、それだけでなく自己表現の一環として文字を使っているだけですよ、ということを伝えたくて「アート書道」だと。単にお手本をまねるだけでない書道ですよ、という思いがあります。
 書道をやっている者として、「何が書いてあるか分からない」と言われたり、高尚すぎるイメージを持たれるのは、ものすごくもったいないと思うんです。本来は、もっと開かれたアートでもいいんじゃないかな、と。私がやれる役割は漢文ではなくて、日常で接している日本語の言葉を表現するところだなと思って、教室でも主にそこのところをやっています。
なるほど。現在はその教室と、ご自分の作品づくりを並行してやられているんですか?
 最近は教室のほうが忙しくて。なかなか自分の作品を書く時間がとれないんですが、ただ、こうしてお伝えする場があることで私自身、生徒さんから学ばせていただくことが多いですね。あと、書道に関する認識が変わっていく方が多いのも楽しいです。
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こばやし先生が教える「墨娯書道教室」は、横浜スタジアムや中華街のすぐ近く。和気あいあいとした雰囲気のなかで、書を学べる。生徒の皆さんが達筆なので、てっきり書道経験者ばかりかと思いきや、習い始めてまだ数年という方や大人になってから再開した方も多いそう。
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数々の作品を生み出してきた道具たち。(上)作品に押す篆刻。(中)筆の素材は山羊や馬などさまざま。こばやし先生は、柔らかい線を表現できる山羊毛をよく使うという。(下)墨は、表現したい色みによって松煙墨と油煙墨を使い分ける。よく使うのは、青みを帯びた墨色が特長の松煙墨だそう。
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自らが「お気に入り」という作品。春の風にたゆたうような優美な線から、花の香が匂いたつようだ。

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