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テーラーグランド オーダースーツ

フルオーダーメードで、着る人の個性が際立つ一着を

長谷井 孝紀(はせい たかのり)
岡山県出身。都内の職業訓練学校で洋裁を学んだ後、約10年間にわたって修業を積む。2010年、テーラーグランドをオープン。幅広い層に顧客を持ち、「着る人らしさ」を大切にした洋服づくりを行っている。
詳細はこちら! テーラーグランド

テーラーグランドでスーツを仕立てるお客さまはどういう方が多いですか?
さまざまな職業の方がいらっしゃいます。政治家や芸能関係、また学校の先生、サラリーマンの方などいろいろです。今、洋服って量販店などで手頃なものも売られていますよね。そういった物を選ばずに、「自分だけの一着を作りたい」という方は、「自身のスタイルを持っていたり、探求している紳士」だと思うんです。「ゆずれないポイント」というのがあるのでしょうね。特に男性の場合は、そういうこだわりが強いように思います。

なるほど。
あと、私どもの場合、この店内で映画の上映会をやったりもするんです。ちょうど白壁なので、そこにプロジェクターで映しています。出演している俳優さんの着こなしとか参考になる点も多いですので、集まったお客さまと盛り上がったりしています。たとえば普通の背広に見えても、こだわる方からすると「あっ、どこそこの背広だ!」と分かったり。分かる人には分かるという面白さがあるんですね。

ボタンなども、店内にいろいろな種類が並んでいて面白いですね。
そうなんですよ。イギリスから仕入れたものとか、ちょっとサイズが違うものでしたり、いろいろなボタンがあります。

お客さまがいらした時、最初にするのはどんなことでしょうか?
まずは会話ですね。どんなシーンで着たいのか、どんな物が欲しいのかはもちろんですが、好きな映画やお酒の話もします。そういった中から僕なりにお客さまの人となりをつかんで、「こういう生地でこういうスタイルのものがいいのでは」と提案させていただいたりしています。採寸は最後ですね。ですので、時間はわりとかかります。人によっては3時間ぐらい話したりします。いろいろ脱線したりして(笑)。

必ず聞くことはありますか?
まずはお仕事ですね。昔は職業と装いがセットになっていまして、銀行員だったら銀行員らしい真面目なカチッとした感じとかありましたよね。今は薄れつつありますが、やはり仕事によって着るものは変わってまいりますので。

デザインはもちろんですが、生地の種類や柄などで見た目の印象は変わりますものね。
たとえばストライプにしてもいろんなストライプがありまして、ハッキリしたものからボンヤリしたものまで、印象はまったく変わります。ハッキリしたストライプはオシャレではありますが、固いお仕事の方にはあまり向かないですよね。

たしかにそうですね。
あとは、お客さまがお持ちのワードローブの数にもよります。例えばハッキリしたストライプは、見た人の印象に強く残ります。ワードローブが少なめの方の場合、たまたま次に会った時も同じストライプのスーツを着ていますと「この人、いつも同じスーツを着ている」と思われてしまうと。ですので、ワードローブをあまりお持ちでない方でしたら、個性を主張しすぎない柄をお勧めするようにしています。特に若いお客さまの場合、スーツをたくさんお持ちでない方が多いので、そういったご提案をしています。

若い方でスーツをオーダーする方もいらっしゃるんですね!
私どもはお客さまの年齢層が広く、20代から60、70代の方までおいでになります。

男性が初めてスーツをオーダーするきっかけは、どういったことが多いのでしょうか。
私の場合は成人式でしたが、友人の結婚式に出席するですとか、昇進した記念にという方も多いように思います。あとは、お父様がいつもスーツを仕立てていらして、子どものころから洋服屋に一緒に行っていたという方もいらっしゃいます。年月が経って、今度はその方がご自分のお子さんを連れていらっしゃることもあるんですよ。

なるほど。オーダーを受けるにあたって、さまざまな体型の方がいらっしゃると思うのですが、それぞれお勧めの似合う型はありますか?
背広って、いろんな体型の方それぞれに似合う型があるんですよ。例えば、最近は丈が短めのジャケットが流行しているのですが、ボリュームのある体型の方ですと横幅が目立ってしまうので、あまりお勧めはしません。やはり、オーダーで作るものは、流行に左右されてはダメなんですね。なぜかというと、当然価格が高いですし、長く着るものですので、流行を追うよりも着る方に一番いいバランスを考えます。ボタンの位置、ポケットの位置すべて一番似合う位置を見つけ出して、仮縫いをしていきます。ゼロから始めますので、どんなデザインも可能なんですよ。

お客さまの方も楽しくなって、つい「あれはどうかな?これはどうかな?」と希望がふくらんでいきそうですね。
そうなんですよ(笑)。ただね、引き算の美学というのもあると思うんですね。もちろんフルオーダーですので、あれこれデザインを盛り込む事は出来るのですが、あくまでトラディショナルなスタイルをベースに、これ見よがしでは無い控えめなデザインが大切だと思います。後はそこに上質な生地と良いシルエットの仕立てがあれば十分と言いますか。

着た時のシルエットの美しさが、やはりスーツの魅力ということでしょうか。
当然、仕立てたものって体にフィットしていますし、特にハンドメイドで仕立てられたものって独特なオーラを放ちますので、シンプルなものでも目立つんですよ。それ以上にごちゃごちゃすると、僕としてはtoo muchだなと感じてしまいます。

「引き算の美学」という言葉が出ましたが、気をつけるべき点とはどんなところでしょうか。
まず色は3色におさめるようにしています。いろいろな色や飾りをつけると、そちらに目がいって顔に目がいかないんですね。ですので、簡素にしたほうがご本人が主役になると思います。洋服は、着る人の一歩後ろに下がって静かに存在を感じさせるのがいいかなと。自分というのはどういう人間なのか、どういう人間に見られたいのかを考えた上で、装いを決めるのがいいのではないでしょうか。

あくまで主役は着る「人」だと。
はい。ご希望を踏まえつつ、似合うものをご提案させていただいています。少し前に「チョイ悪」が流行りましたが、シャツをはだけたようなスタイルは誰にでも似合うものではないですよね。やはりご本人の気質に合ったものを選ぶことが大切だと思います。

初めてお客さまが来店した時に、長く時間をとって会話をなさるというのは、そのあたりも見極めていらっしゃるんですね。
そうですね。でも、あえて「そういう自分を変えたい」ということでしたら、もちろんお手伝いもさせていただきます。私どもはフルオーダーですので、お客さまの要望にお応えさせていただいています。

たしかに、人のキャラクターは着るものに反映されていますね。
意外と、考えていることって服装に出ると思うんです。日本は昔から「男子は服装にうつつをぬかすな」という風潮がありますが、欧米では戦略的に服装を考えていたりしますよね。

アメリカの政治家は、勝負の時は赤いネクタイとも言いますものね。
そうですね。欧米では、服装が階級や所属をあらわすという側面がありますね。たとえば少し昔の話ですが、ブルックスブラザーズのスーツを着ているとアイビーリーグの出身が多いとか。

そうなんですか!
ネクタイのストライプなども、左下がりだとヨーロッパ、右下がりだとアメリカのスタイルだと言われています。右下がりのものは、アイビーリーガーなどのトレードマークだったりするんです。アメリカの政治家を見ていますと、そういうエリート出身をネクタイの柄でアピールする人もいますし、大統領クラスになると逆に無地のものを選んだりする。特定の層に偏らないように、という配慮なのでしょうね。

面白いですね!まったく知りませんでした!

成人式で初めてのオーダースーツ
それを機にテーラーの道へ

お話が少し変わりますが、もともとテーラーになろうと思ったきっかけを教えてください。
思い返してみると映画でしたね。最初は、成人式で着るものを探そうと雑誌を見ていたのですが、既製品では気に入ったものがなくて。たまたま同じ雑誌に、その後、僕が修業に入ることになるオーダーの店も紹介されていまして、「ここだ!」と相談に行ったんです。

ちなみに、その時に影響を受けた映画はなんでしたか?
ギャング映画なんですが「カリートの道」というアル・パチーノの作品でした。その作品に出てくるスーツは70年代スタイルで、パンツなんかもフレアしていて、当然、既製品では売っていないわけです。これは仕立てるしかないなと。

そこが、この業界への入り口だったと。
そうですね。その時に作ったものは概ね気に入ったのですが、やはり細かい部分で「もう少しこうしたかった」というところがあるわけです。それで、自分で作りたいなと。

そこから専門学校に入られたのですか?
探しましたら、職業訓練校なら無料で教えてもらえることが分かりまして。当時、東京の大塚にあった職業訓練校に1年通って基礎を身につけ、その後、初めてオーダーした店に修業で入りました。

職業訓校に入って、初めて針や糸を手にされたのでしょうか?
昔は男子は家庭科の授業はありませんでしたし、当時はまったく興味もなかったので、初めての体験でした。

授業はいかがでしたか?
今振り返ってよかったなと思うのは、服飾の歴史など「知識」を教えてくれる先生と、仕立ての「技術」を教えてくれる先生の二人がいらしたことですね。

実際に洋服を仕立ててみていかがでしたか?
最初は縫いを勉強しました。でも、最終的に「自分には縫いのセンスはないな」と思いました。自分は裁断とか型紙づくりとか、そちらをやっていきたいなと。

テーラーと一言でいっても、裁断や縫いなど分業化されているんですね。
そうなんですよ。縫いの職人さんは、自宅をアトリエにして黙々と縫いの作業だけをしていますしね。逆に僕は話をしたりするのが好きなので、お客さまと接する場のほうがいいなと思いました。もちろん、一人ですべての作業をする職人さんもいますが、時間がかかる分、金額は割高になりますね。僕はお客さまのことを考えると、あまり高すぎてもどうかなと思いまして。

では、テーラーグランドさんでは工程によって、それぞれのプロに任せようと。
僕がお客さまのお話を伺って、採寸して型紙を作って裁断をします。その後、別のスタッフが仮縫いを組み上げ、お客さまに一度着ていただきます。そうすると、修正する点が出てきますので、また全部バラして補正をすると。そこまでは店内ですべての作業を行い、それ以降は外部の職人さんにお渡しします。職人さんも横浜の方で、実際に会って意思疎通が図れるので、いいものができていると思います。

そもそも、横浜でテーラーのお店を出そうと思ったきっかけは何でしょうか。
もともとは岡山の出身で、横浜に縁があるわけではないんです。上京してからは都内に住んでいたのですが、どこか窮屈な感じがありまして、横浜に引っ越してきたんです。このお店は、「自分が横浜に住んでいるから横浜で出そう」という思いもありましたが、クラシカルな建物が横浜にはたくさん残っていて、自分が好きな洋服のテイストに合うなという感覚もありました。
たまたま物件を探している時に、今入居している「インペリアルビル」オーナーの上田さんにお会いする機会がありまして、奇遇にもインペリアルビルを建てた上田さんのおじいさんがここで仕立て屋さんをなさっていたそうなんです。そのお話を聞いて、「ぜひここでテーラーをやらせてほしい」とお願いしました。

このビルとは運命的な出会いだったんですね。
この部屋は、以前イラストレーターの安斎肇さんが住んでいらして、テレビのロケに使われたこともあるそうですよ。今使っている内装は、安斎さんが使っていた当時の物もあり、配管にはイタズラ描きも残っていますよ。

ちょっとした歴史を感じますね!
では最後に、今後の夢や目標を教えてください。

とにかく、いい服を作って、お客さまに喜んでいただきたいですね。あとは、映画で古い時代の着こなしもたくさん見ていますので、ドラマなどの衣装の時代考証にも興味があります。まずはいい洋服を作り続けることで、「新しい次の展開が見えてくるのでは」と思っています。

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昭和初期に建てられたインペリアルビル内にある店舗は、白壁やドアがクラシカル。品格を感じさせる。

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テーラーグランドではワイシャツのオーダーもできる。衿やカフスの形などは、数多くのサンプルから好みに応じてセレクト可能だ。

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長谷井さんが得意とするのは、型紙作りと裁断。ジャケットの場合、全身10ヶ所以上採寸し、着心地のいい一着に仕上げる。

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陽光が降り注ぐ窓辺が作業スペース。業務用スチームアイロンは、水の入った大きな容器がまるで点滴にように天井から吊り下げられていた。

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