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公益財団法人日本盲導犬協会理事 盲導犬育成統括責任者 多和田悟さん

「自分自身で判断し、自発的に動ける。
そんな盲導犬を育てたいと思っています」。

映画やドラマとなり、多くの人を感動させた盲導犬クイールの物語。そのクイールを育てた訓練士として知られる多和田悟さんは現在、日本盲導犬協会で盲導犬育成を統括する立場として活躍を続けている。
盲導犬というと特別に賢い犬と思われがちだが、多和田さんは「ふつうの犬ですよ」という。「見えない人にとって、例えて言うなら盲導犬は“眼球”で、犬の動きを伝えるハーネス(胴輪)は“視神系”。眼球と視神系から伝わってきた情報を把握して、どう進むかを決めるのは“脳”である使用者さんの仕事です。ですから、犬と使用者さんの歩行訓練で一番大事なのは、犬を通じて段差や障害物などの情報を得る方法を体得すること。僕は盲導犬の究極の役割は、見えない人の横にいることだと思っています」。
また多和田さんは、盲導犬は『訓練』するのではなく、『教育』するのだという。「繰り返し教えてパターンを覚えさせる『訓練』でなく、犬自身が判断して自発的に動けるように教育したいというのが僕の考え方です。犬は考えることができる生き物ですから、僕は犬に期待をしています」。


〈プロフィール〉
滋賀県近江八幡市出身。1974年、財団法人日本盲導犬協会 小金井訓練所に勤務。それ以降、クイーンズランド盲導犬協会、関西盲導犬協会などで盲導犬に訓練にあたる。「クイールを育てた訓練士」(文春文庫)、「クイール流愛犬のしつけ方」(実業之日本社)など著作やテレビ出演も多数。


日本盲導犬協会の神奈川センター。一年間パピーウォーカーの元で育てられた犬たちが戻り、盲導犬になるための教育を受ける場だ。


階段の訓練では、「段差の始まりと終わり」を犬が人に知らせることが大切。登りでは、一段めに前足をのせて止まる。


「カム!」という招呼の指示に対し、駆け寄ってくる犬。人とスムーズにコミュニケーションをとれることが、盲導犬となる大前提だ

多和田悟さんインタビュー

まず、盲導犬となる犬についてですが、どのように選ばれるのでしょうか。
「盲導犬はすべて避妊去勢されていますので、一番大切なのは血統作りです。親犬を見れば大体どんな性格の犬かがわかります。人間の場合は『トンビがタカを生む』ことがありますが、犬は『トンビはトンビ』。俗に『氏より育ち』と言いますが、犬は『氏は氏』なんですね。この神奈川センターでは年間120頭超える犬を繁殖しており、同胎犬の中から盲導犬になる子、繁殖犬になる子がいます。すべて血統で決まっています」。

盲導犬は訓練が大変なイメージがありましたが、その前から大変なんですね。
「人間ぐらいですよ、努力でなんとかなるのは(笑)。あくまで僕の感覚ですが、犬の行動の8割は親から受け継いだもの。残りの2割は自分で学習できるもの。その2割のうち、本能的に学習するのでなく、意識して学習できるのは5パーセント程度だと思います。この『5パーセント』を、いかにマキシマイズ(最大化)するかが大切。可能性を膨らませるための存在がパピーウォーカーさんです」。

パピーウォーカーさんの元で、子犬はどのように育てられるのでしょうか。
「唯一言えるとしたら、人間っていうのはみんな優しいんだと知っている犬は強いですよね。困ったことがあったら最終的に人間に頼りますから。そもそも犬って、困ったから何かしようと思わない。犬は困ることがあまりないんですよ。今日は暑いななんて思わない(笑)。近くにいると擬人化してしまいがちですが、犬を犬として扱ってやれば、その尊厳を認めてさえやれば、いい仲間になると思うんですよね。かわいがるということは甘やかすということではないし、甘やかすのがどうしていけないの?とも思います。ただ、本来やらなくてはいけないことをやらせないのはダメ。人間のルールをきちんと教える必要はあります」。

パピーウォーカーさんの元で1年を過ごして、訓練センターに戻ってきた犬たちにはどのように接するのでしょうか。
「まず見るのは、人との関係がどの程度できているかです。それは見ればすぐにわかります。パピーウォーカーさんに最低限お願いするのは、盲導犬は最高の家庭犬であるべきということ。特別な犬ではなく、仕事を持っている最高の家庭犬ということです。
最初に教えることは人とのコミュニケーションです。僕が最終的に教えたいのは『カム』だけ。呼んだら来るっていうのは唯一、犬が意味を理解しなければ成立しない科目なんです。おすわり、伏せは疲れたら座ります。でもカムだけは『ああ、あの人のところに行こう』と犬が行動しない限り成立しない。だからカムだけ知っていればいい。家庭犬も同じだと思います」。

訓練が進むとパートナーとの生活が始まりますが、どのようなことをするのでしょうか。たとえば赤信号では渡らないとか?
「赤信号、渡ってしまいますよ、車が来なければ。犬には信号が変わったことすら分からない。交通音で人が判断しているんです。赤信号だから止まっているのではないんです。段差だから止まっている。角だから止まっている。ユーザーさん自身が『自分と同じ方向に車の走っている音がしているから行こう』と判断して犬に『オッケー、ゴー』と指示を出す。もしゴーと指示したにも関わらず車が来る時は、『停止』するように教える科目はあります」

まわりの人が信号無視をしたら、いっしょに渡ってしまいますか?
「だから困ってしまうんです。ユーザーさんも人が動き出したから行こうと判断してしまう。あれは危険です。だから人の足音で判断したらダメなんです。判断するのは車の発進音なんです」 。

車が止まって音がしなくなったのを確認するのではなくて、発進する音なんですね。
「たとえば自分の前で車が止まった音がしても、自分の進む信号が青になったとは限らない。信号に右折や左折の矢印が出ているかもしれません。だから、自分と同じ方向に進む車の音を合図にして渡ってくださいと使用者さんには伝えています。でも、最近は歩車分離式の信号もありますから、動き出す音もあてにならなくなっています」。

そういう時はどうするんですか?
「まわりの人に聞くしかないですね。青になったら教えてくださいと。難しい信号ではそうするしかないと思います」。

犬が何でも教えてくれると過大な期待を持ちがちですが、やはり人の手助けも必要なのですね。
「はい。見えない人は杖を使って歩くこともできます。でも犬を使って歩こうという人は歩き方の基本が違っていると思います。杖で歩く時は障害物がないか地面を触りながら歩きます。一方、犬は自分が見た情報を伝えてくる。右や左によけて歩けば、その動きがハーネスに伝わって『何かあるんだな』と気づくことができます。杖の場合は『触覚的な歩行』、盲導犬の場合は『視覚的な歩行』と言えるかもしれません。見えなくなると自分では視覚的な歩行ができなくなります。盲導犬を使うということは、犬という眼球があってハーネスという視神経があるということ。情報が脳=使用者さんに入り、人自身が『右に行こう』とか『止まろう』という判断をしなくてはいけません」。

どこで角を曲がるのか、どんな道順で目的地に行くのかは、当然人間が指示するわけですね。
「そういうことです。ただし、我々と犬では目の位置が違いますから、見えているものは相当違います。例えばエスカレーターで上りが終わりに近づくと、ほとんどの犬がそわそわします。なぜだろうと思って、エスカレーターで犬と同じ位置にしゃがんでみたら、周りは全部真っ黒な壁しか見えないわけです。そこでヌゥッと目の前が開けてくるわけですから、それは驚きますよね。
エスカレーターでかがんでわかったことは階段。見える人が階段で目を使っているのは最初だけなんですよ。半分ぐらいの人は終わりも見ている。でも真ん中で、次の段の位置を確認している人はいない。それで階段で必要な情報を考えたら、『いつ始まるか』だけなんですね。犬に伝えるべきなのは『どこから階段が始まるか教えて』ということだけ。でも、それに気がついた時は嬉しかったです。半日、犬を抱えて駅の階段で観察したんですよ」。

犬に訓練するというよりも、犬が伝えてくる情報を使用者さんがどう捉えるかが大切なんですね。
「そうなんです。犬を使って段差や障害物の情報を得るということです。歩行と一言で言っても、実は2つ意味があるんですよ。まずはどこに行くか決めること。そして、角・段差・障害物を避けて行くこと。段差があると、逆に目印になることもあります。以前、パチンコ屋さんを目印にしたら、定休日の日は静かでわからなくなっちゃった(笑)。でも、角や段差は変わりませんから(笑)。見えない人の歩きって、行き過ぎないとわからないんです。『あ、さっきのところだったんだ』と通り過ぎてから初めてわかるんです」。

見えていたら、「ああここだ」と思いますが、見えない方は違いますものね。
「犬は学習しますから、前に行った場所を覚えていて、そこを通り過ぎる時に『前ここに来たよね。今日は寄らなくていいの?』と聞いてくれます。時々内緒にしておきたいところで立ち止まって、困ってしまうこともありますが(笑)」

そうなんですか(笑)
「犬のいいところは口はかたいこと。だけど態度で示す(笑)。でも、笑えるでしょう。見えない人が見えないまま何かを探すって、ある意味悲壮です。でも、最後に笑えればいいじゃないですか。僕は人生って楽しむためにあると思っていますから、見えないからもう楽しくないとはならないと思うんです。見えないまま人生を楽しむ方法を探そうよと伝えたい。そういう意味では犬っていいですよ。ツンツンと上着の袖を引っ張ってきたり、じゃれてきたり。『さあ行こうよ』って誘ってきたりしますから」。

あったかいですしね。
「見えない人の移動は大変だと思いますが、ある人が言ったんです。『犬と一緒なら迷うことも楽しんでいる』って。それってすごいことですよね」。

盲導犬を連れて帰って、生活の変わる人は多いですか?
「変わる人もいれば、変わらず自分のペースで生活する人もいます。ただ一つ言えるのは、『ちょっと町内を回ってくるか』という気軽な散歩ができるようになります。ご本人曰く『犬のため』とは言っていますが(笑)。犬を連れて外に出ると、声をかけられることが増えますよ。『あら、大きな犬ですね』とか」。

犬を連れていると、知らない人どうしで会話する機会もできますよね。
「そういうことも含めて、僕は盲導犬も普通の犬だと思っていますから。うまく人間が必要とする情報を伝えて、そのコミュニケーションが取れるかどうかが盲導犬の訓練。昔は調教と言いましたが、それから訓練になって、今は教育。訓練ってできるようになるまで繰り返しやることで、そこに理解はありません。教育になると、犬に理解を求める。車が来ているところで『ゴー』と言ったら犬は止まる。以前は『利口な不服従』と言っていましたが、僕は今『適切な判断と自発』と言葉を変えています。それは服従している犬ではできない。考える犬でないと『判断と自発』はできないと思います。訓練では繰り返し教えてパターンを覚えさせますが、そもそも何をしないといけないかを犬に教えておけば『判断と自発』ができる。犬は考えることができる生き物だから、僕は犬に期待をしています」。

最初の話に戻りますが、5パーセントの可能性をマキシマイズして理解できる犬にしていくと。
「人間に例えると、化粧の仕方を教えるのではなくて、気持ちのいいスマイルを教えているようなものだと思います。盲導犬自身は使命を背負っているなんて思っていないし、やるべきことをやっているだけ。しかも、それで『GOOD』と褒めてもらえる。今、世界のほとんどの盲導犬はエサで訓練しています。でも僕はエサを使いません。エサを使うやり方を否定するわけではありませんが、犬との関係は取引ではないと思っているからです。エサは犬からしたら権利。一緒に暮らす仲間としてもらって当たり前なんです。今、僕が目指しているのは取引ではなく、パートナーシップの中で機能する盲導犬を育てることなんです」。

公益財団法人日本盲導犬協会 神奈川訓練センター

日本盲導犬協会の盲導犬訓練の拠点となる施設で、犬のトレーニング室や共同訓練室9室を備えた訓練棟と、医療設備などが整えられた犬舎棟の2棟からなる、協会初の盲導犬育成をするための専門的な施設です。
日本で唯一の「日本盲導犬協会付設 盲導犬訓練士学校」を併設する神奈川訓練センターでもあります。
また、パピーウォーカーなどボランティアも募集中です。

  • ショップ・スポット名
    公益財団法人日本盲導犬協会 神奈川訓練センター
  • 住所
    神奈川県横浜市港北区新吉田町6001−9
  • 電話
    045-590-1595

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