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普段着のようにいつもそばにある靴を[HansABO]

ものづくり
ことづくり
匠の風景

 

今号の現場
【職種】靴職人
【匠名】HansABO 大塲真由美
【場所】横浜・磯子区

 

丁寧に、じっくりと、思いをこめて。
手仕事を生かしたものづくりの現場を紹介するコーナー。
今回は、生まれ育った横浜で、オーダー靴制作と
靴づくりのワークショップを行い、
いい靴と出会う喜び・靴をつくる楽しさを伝え続ける
「HansABO(ハンスアボ)」のアトリエへ。

 

 

磯子区洋光台の小高い丘に建つ一軒家のガレージが「HansABO」(http://www.hans-abo.com)のアトリエだ。靴の注文/靴の教室として2007年に設立。オーダー靴の制作だけでなく、現在30名ほどの生徒たちが通う手づくり靴のワークショップも行っている。「履く人一人ひとりの生活を思い、人間性のある本質が備わったものづくりを目指しています」そう語る大塲さんの靴は、外見の美しさはもちろんのこと、自然な革の匂い、やわらかなフィット感、そして何よりも歩くことが楽しく感じられる“魅力”にあふれている。

 

ゆるやかな坂をのぼっていくと、閑静な住宅地の中に突然「HansABO」のアトリエが現れる。自宅のガレージをそのまま使用したというアトリエに入ると、コンクリート打ちっ放しの無機質な箱の中に、生きている革の匂いが漂う。制作途中の革靴やワークショップに通う生徒たちの道具箱、どこか懐かしさの感じられるミシン、ハサミや糊、金槌といった道具類がきちんと分類され、きれいに美しく並んでいる。

 

 

自分の足が小さく、なかなか自分の足に合う靴と出会えなかったことがきっかけで靴づくりを始めたという大塲さん。「もともとプロダクトデザインを勉強していて、立体のものづくりは好きでした。靴が好きだったことも重なり『サイズがないなら、自分で自分の靴をつくっちゃえばいいんだ!』と(笑)。そこから自分用の靴をつくるようになり、今に至る感じですね」。

 

実際の作業を見せてもらった。木型に合わせてつくった型紙を用い、革を裁断する。いかに無駄なく革を裁断するか、これはとても難しい作業だという。「昔は裁断をする職人がいちばん高給取りとされていたぐらい、重要な作業です。1枚の革から5足とれるか、6足とれるか、そこに職人の腕の差が出ますから」と大塲さん。

 

型紙の配置が決まったら、次は銀ペンと呼ばれる革用のペンや銀ペンコンパスを使い、革を切るラインをひいていく。

 

そして毎週自分で研いでいるという包丁を使い、革の裁断が始まった瞬間、アトリエ内にも緊張した空気が流れ始めた。「この革は、イタリアのトスカーナ地方のバケッタ製法という伝統的な技法で作られた革です。ベジタブルタンニンなめしといって、植物から抽出した渋で手間暇をかけなめされています。丈夫で使い込むほどに艶が出て、経年変化が楽しめる革好きの方に人気の素材です」。見ているだけでも、かなり力が必要そうな作業というのがわかる。でも大場さん曰く、「この革は扱いやすい方。もっと硬かったり、厚みがあったり、カットしにくい革も多いです」とのこと。この連載の取材で毎回感じることだが、丁寧なものづくりに向き合うには、情熱と“パワー”が必要だ。

 

続いて、ちがう靴のかかと部分の制作に取り掛かる。“糊づけ”という工程では、使用する革の特徴や工程などに合わせて何種類もある“糊”の中からベストなものをチョイスしなければならない。靴は右足、左足と2つあるので、当然作業も2倍だ。

 

そして、ミシンがけへ。

靴づくりの現場には欠かせない“ポストミシン”。作業部分が郵便ポストのように細く立ち上がっていることから、そう呼ばれるようになったといわれています(ほかの説もあるそうです)。「靴は立体的なものなので、平たいミシンだと縫えないものも多いんです」…そう言いながら、ストン、ストン、静かにゆっくりとしたペースでひと針ずつ革にミシンをかけていく大塲さん。

革の端から1.5ミリぐらいが、いちばんきれいに映える縫い方という。縫う場所によって針を変えていくことも、忘れてはならない。

 

 

 

大塲さんの机の上にちょこんと並んでいるのは、オーダーメイドのベビーシューズ。足に馴染むやわらかな革、脱ぎ履きしやすいベルクロ、おしゃれな配色、ステッチデザイン…ファーストシューズとしてギフト用にオーダーする人も多いという。

 

大場さんが家族のためにつくった靴たち。こうやって並べられた靴を見ているだけで、お子さんと一緒に家族みんなで楽しそうに歩いている光景が目に浮かんでくるのが不思議だ。もちろんお子さんやご主人の顔は存じ上げないのだが…。

 

この日、大塲さんが履いている靴も素敵だった。靴が大塲さんの人柄を黙って語ってくれている。

 

 

そして、冒頭にも書いているが、この「HansABO」はオーダー靴の制作だけでなくもうひとつの顔をもつ。それが、靴づくりのワークショップを行っている教室でもあるということ。「2007年10月にこの『HansABO』をスタートさせたのですが、最初はオーダー靴を専門にお受けしていたんです。でも3ヶ月を過ぎた頃に“靴をつくってみたい”という知人の相談を受け…その後、知人、その友人の方に広がって。あっという間に人数も道具も増え、1年もしないうちに10人ぐらいの生徒さんが通うようになりました。今では30人ぐらいの方が参加されています」。

 

こちらはその生徒さんが手がける制作途中の靴。

いずれも大塲さんの手ほどきを受けながら、自分で木型をつくり、型紙をとり、革を裁断し、ミシンがけし…時間と思いのつまった靴だ。それはそれは愛おしいだろう。「長く、大切に履こう」そう自然に思えるはずだ。

 

「サイズ的に見ても、靴というのは一人の人間が最初から最後まで責任をもってつくることの出来るギリギリのものだと思います。もちろんオーダーで靴をつくるという喜びもありますが、“自分でつくる”ことの楽しさも知っていただきたい。力もいりますし、時間もかかりますし、簡単ではありません。でも大変だからこそ、愛着もわく…。靴づくりをしている者にとって、愛着のある一足に出会えたと思っていただけることはとても幸せなこと。ですから“自分でつくる”喜びを伝えていくことも私の大事な仕事だな、と思い今後も続けていくつもりです」。

 

取材当日、11時から行われたワークショップの様子。

 

「靴はファッションでもあるけれど、からだに、健康につながる道具でもあると思う」と語る大塲さんは、靴をつくるたびに、“もっとこうした方が歩きやすいのでは?”“もっとこうすれば負担がかからないのでは?”など新しい気づきを発見し、次に生かしているという。

最後に、「HansABO」のこれからについて聞いてみた。「始まりは、自分の足に合った、いろいろな所に履いていける靴がほしい…そんなシンプルな思いからでした。でも、お客様の靴をつくったり、ワークショップで教えたりする今も、思っていることはその時の自分と何も変わっていないかもしれません。靴箱に大事にしまっておく靴ではなく、普段履く靴をつくりたい。どこに行く時も一緒の靴、“だけど実はこだわりと思いがぎゅっと詰まっているんだ”という喜びを感じながら、たくさん歩いていただけたらうれしいですね」。

大塲さんの元には「以前作ってもらった靴を今も気に入ってよく履いています」という声が多く届けられるという。…今日も「HansABO」の靴が、きっと誰かを笑顔に、幸せにしてくれている。

匠の風景
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手づくり靴のオーダーをはじめ、自分自身で作るワークショップを開いている「HansABO」の大塲真由美さん。足のサイズを丁寧に計測することで、ぴったりフィットする世界に一つだけの靴を作り上げていきます。デザインにもこだわり、オシャレな一足ができるのもうれしいポイント!

  • ショップ・スポット名
    HansABO
  • 住所
    神奈川県横浜市磯子区栗木2-10-32

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